STRレポートを正しく理解する:損益計算書(P&Lレポート)
業績の評価方法を問わず、ホテル業界の最終的な目標は常に最大の利益を上げることです。業界ベンチマーキングの他のすべての要素と同様に、その目標の達成度を測定するために特別に設計されたデータセットやレポートが存在します。「STRレポートを正しく理解する」(2022年)シリーズの最終稿となる本書では、業界で一般的にP&L(損益計算書)と呼ばれる損益データを深く掘り下げ、収益最大化と効率的な運営実現に向けた具体的な指標の活用方法について考察します。
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P&L(損益報告書)
P&Lレポートは、施設またはポートフォリオの収益と費用に基づき、特定期間における利益または損失を示すものです。これらのレポートは、売上を伸ばし、費用を管理し、利益を生み出す企業の能力を直接反映した文書となります。ホテルは、このレポートを基に、営業利益率、総営業利益率、EBITDAマージンを分析し、人員不足やエネルギーコスト上昇といった傾向を把握し、機会を活かして弱点を改善する能力を評価することができます。
レポートはさまざまなレベルで活用できます。オーナーやホテル/管理会社にとって、P&Lデータは自社の戦略がどれほど効果的であったか(純利益)を理解する手段となります。投資家にとっては、市場における収益性や過去の傾向(GOP(総営業収益))の評価を通じて、プロジェクトの財務的実現可能性を示すものとなります。
P&L KPIとその活用目的
実用的なデータにおいては、「時間」が重要な要素となります。ホテルにとっては一日一日が過去であるため、頻繁に過去を振り返ることでデータを運用し、戦略を変更し、契約を再交渉することが可能になります。月次P&Lにおける以下4つのKPI(重要業績評価指標)を起点として、まさにこれを実現することができます。
| TRevPAR(販売可能客室一室あたり合計収入) = | 総売上高 |
| 利用可能客室総数 |
TRevPAR(販売可能室一室あたり総売上高)では、飲食売上、会議スペース、スパ、ゴルフ、駐車場、さらには電話/インターネットサービスを含む全部門の収益が考慮されます。また、キャンセル料やリゾート料金など、総合的な業績評価において見落とされがちな雑収入も含まれます。
市場におけるTrevPARをベンチマーキングすることで、各部門における施設の機会をよりよく理解できます。コンペティティブセットのホテルのTRevPARが大幅に高い場合は、各部門を精査し、料金体系の違いを確認する必要があるかもしれません。たとえば、自社ホテルの駐車料金が競合他社より大幅に低く設定されている場合、駐車収益の増加、ひいてはTRevPAR向上の機会となり得ます。さらにTRevPARは、特定期間における収益増加の要因分析にも活用できます。さまざまなグループを比較し、ホテル収益に最も影響を与えた層を特定することで、今後の戦略を調整し、異なるビジネスセグメントを対象に据えることができます。
| GOPPAR (販売可能客室一室あたり営業総利益) = | 総営業収益 |
| 利用可能客室総数 |
GOPPARを分析することで、施設の最終利益を測定し、事業運営の効率性を把握できます。売上高指標では好調でも、経費がかかりすぎて市場水準を下回る分野が存在する可能性があります。
ショルダーシーズンはまさに好例です。GOPPARは、需要が低い時期の経営管理状況を把握するのに役立つためです。経費は必要以上に高くなっていないか、特定の時期に過剰な人員を雇用していないかといったことを把握できます。
| LPAR (販売可能客室一室あたり人件費) = | 合計人件費 |
| 利用可能客室総数 |
ホテルの人件費には、失業率を左右するマクロ経済的要因や、ホテルの特定市場における季節性といったミクロ経済的要因など、多くの要因が影響します。人件費はホテル運営コストの中で最も高い部類に入るため、収益性に直接影響します。したがって、ホテルの効率性を把握する際には、この経費を注意深く検討することが不可欠となります。
GOP (総営業収益)とは、すべての運営経費を差し引いた後のホテルの利益を指します。
GOPはホテルの運営収益性の水準を示し、事業運営側およびレベニューマネージャーが使用する主要な指標です。
EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)= 総営業収益 - 管理費 - 営業外収入及び費用
EBITDAは、変動要因が多いため二次的な指標です。EBITDAは、企業の価値と、潜在的な買い手や投資家にとっての価値を把握する上で有用であり、成長機会を示します(財務、政府、その他の会計上の判断の影響を除外し、収益に関する純粋な指標を提供します)。
P&L(損益報告書)の活用
データ提供者 (レベニューマネージャー、ジェネラルマネージャーなど):
ポートフォリオを分析する際、特定期間(月次)における単一施設を検証することがあります。前年同月比で施設の経費は変化したでしょうか。ホテルの業績はどのようになっており、どの程度の利益が出ているでしょうか。現状を踏まえ、販売可能客室一室あたりの人件費は上昇しているでしょうか。また、販売可能客室一室あたり総売上高と比較するとどうでしょうか。GOPPARを改めて検討し、月次比較を用いることで、レポートから業績をさらに詳細に分析することができます。主要KPIで良好な結果を出している場合でも、経費の増加が粗利益を圧迫する可能性があります。
部門別経費/収益の詳細な概要を含むダッシュボードを通じて、利益が創出されている分野や、どの程度の利益率が達成されているか(または未達成なのか)を可視化して明確に把握できます。
経済的意思決定者 (オーナー、銀行)
既存または潜在的なポートフォリオ/ホテルを検討する際、購入計画の有無や融資申請の有無にかかわらず、P&Lレポートはプロジェクトの実行可能性と、ポートフォリオの財務管理から得られる利益を定義するのに役立ちます。ダッシュボードは、期間ごとの費用と収益の傾向を表示するように構築されています。
データファイルには、すべてのホテルと部門別の各項目が一覧表示されます。これらは、ホテルの税引前利益(EBITDA)を分析するのに役立ちます。経費管理においては、内部コスト(日常業務に関連する費用)を管理する方が、施設の制御範囲外となる外部コスト(税金、付加価値税の増加、融資など)を管理するよりも容易です。
P&Lのレビューにより、市場に対するマクロ的な視点が得られ、傾向を把握できるため、特に市場全体のパフォーマンスを分析する際に有用です。たとえば英国では、ビジネス旅行(ベルリンなど)に依存していた市場が、ここ数か月で改善傾向を見せています。
P&Lを活用することで、パートナーは収益を押し上げる要因と押し下げる要因を把握し、ポートフォリオを管理できます。ホテルの運営状況をよりよく理解し適切に管理することで、キャッシュフローを把握し、長期的な収益予測を立てることがこれまで以上に重要となっています。
レポートで得られる情報と活用方法:
P&Lレポートに精通している方なら毎年目を通してきたでしょうが、詳細データへの需要増加と業界の成長に伴い、現在は月次ベースで提供されています。企業データファイルに加え、データ提供者はデータファイルと連動したTableauダッシュボード、およびグローバル/米国向けスライドレビュー*を利用できます。
簡単に言えば、企業ファイルは、すべてのポートフォリオの生データを国別、市場別、セグメント別に1つのExcelファイルに集約したものです。ダッシュボードはインタラクティブな視覚化ツールであり、ポートフォリオのカスタムセグメントを分析したり、期間に応じたトレンドや機会を容易に把握したり、季節性を特定したり、部門別の人件費をベンチマークすることができます。
方法論
年次P&Lレポートについては、開業後8か月以上経過し、USALI形式でデータを提出している施設が対象となります。月次レポートについては、 STRは20営業日をしきい値としています。 D新型コロナウィルスの影響下では、業界の状況に応じてこの基準は柔軟に適用されました。
必要なデータと提出方法
STRは長年、P&Lデータを年次ベースで収集してきました。業界のニーズと自社サービスの進化に合わせて、2019年に月次のP&Lデータ収集に重点を移しました。現在では数千のホテルが毎月P&Lの数値を提出しており、各ホテルにつき100のデータポイントが考慮されています。これらのデータポイントに関する用語集は、こちらを参照してください。
幸いなことに、データ提供者は特定のフォーマットに縛られることはありません(USALI準拠であることを除く)。STRはデータダンプを受け入れ、報告目的に合わせてデータを照合できる専門部門を有しています。また、PMS(施設管理システム)との連携で実証済みの成功手法と同様に、会計システムとの統合にも投資を進めており、これにより製品の拡張が実現しています。
STRの月次P&Lプログラムでは、ホテルの会計システムからの抽出データを当社システムにマッピングします。この抽出データには、必要なすべてのP&Lデータポイントが含まれている必要があります。当社では、お客様がこのデータをできるかぎり簡単に送信できるようにしているとともに、サポート文書をご用意しています。プログラムへの参加については、STRの担当者にお問い合わせください。
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